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2019/08/26

Koichi Moriizumi

『森泉宏一の実況天国』Vol.18

『森泉宏一の実況天国』Vol.18

前回は私の名前の由来から始まり。
ボートレース多摩川での現地研修開始。
そして、文末には本番研修デビューまでを記しました。
さて、大ベテランであるゴン太アナウンサーの鶴の一声で(恐らく各方面への根回しに尽力していただいたと思います)、想像よりも早く2008年の年末開催で本番研修が始まりました
舞台はもちろん、研修初日に勘違いしたボートレース多摩川の審判室。
レース発売中はとても和やかな雰囲気となるこの部屋。
しかし、発走時刻が近づくにつれて、各審判員は配置に就き、各々が準備と水面のチェック。
数分前とは打って変わって緊張感ある雰囲気に包まれていきます。

私も実況席へ。
何かあった時に備え、席の後ろでは師匠が見守ってくれています。
全艇ピットアウトし、待機水面へ。
ファンファーレが鳴り終わると喋り出しです。

ぎこちない前口上から全艇がスタート!
「インから1号艇が逃げて……」
すると、水面に6艇いるはずのボートが5艇になっている。
「(あれー!?外のコースで水しぶきがあがっているぞー!)」
「(デビュー戦でいきなり転覆だって!?何でよりによって! あー、この後はどうするんだっけ!?)」
転覆などの失格があった場合の対処は頭に入っていましたが、やはり、本番からくる緊張から頭の中は真っ白に。
通常、アクシデントが発生すると審判さん同士のやり取りがあり、転覆や落水などが決定し、正式に失格へという流れとなります。
その失格が決定した後、アナウンサーは実況中にさりげなく失格放送を入れます。
当時、レース場によっては審判長自らが失格放送をされているところもありましたが、東京3場(江戸川、平和島、多摩川)はアナウンサーが行います。
したがって審判員さんたちのやり取りを聞きながら実況をしなければなりません。
ただ、前述したように私の頭の中は真っ白。
そのやり取りを聞き逃してしまう失態。
それに気付いた師匠がすかさずフォローして下さり、失格を伝えて通常実況へ。
選手のケガの有無を心配する余裕もない程の精神状態でバタバタしたこと。
そして、失格をスムーズに伝えられず、いきなり助けを借りたことによる落ち込み。
今になって思えば、いきなりアクシデントで始まったからこそ「いつ何が起こるか分からない」という気持ちで、その後は実況に臨めたかと。
でも、当時の私にはそんな未来への手応えなどはありません。
担当レースが終わり、実況席を離れ控え室に向かう途中、大量の汗に気づきました。
年の瀬とは思えない程の汗を流したことを今でもハッキリ覚えています。

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