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2018/06/20

Junko Shitara

心に残るベストショット Vol.11

心に残るベストショット Vol.11

新進気鋭の吉岡さんに対するは和泉田喜一さん(千葉59期)、鈴木誠さん(千葉55期)、滝澤正光さん(千葉43期・引退)、東出剛さん(千葉54期・故人)の千葉勢4名、坂本勉さん(青森57期・引退)と俵信之さん(北海道53期・引退)の北日本勢も強力でした。
勝ち上がりの結果は中野浩一さん(福岡35期・引退)、井上茂徳さん(佐賀41期・引退)が地元・九州にも関わらず、決勝へ駒を進められないという時代の流れを思わせるものでした。
滝沢さんもこれまでなら「鈴木君との前後は……」というように毎回、話題になる微妙な位置取りだったのですが、この決勝では「鈴木君の後ろ!」と、キッパリ言い切りました。この年の鈴木さんは前年から好調が続き、競輪界をリードする1人になっていました。しかし、3月の一宮ダービーで痛恨の失格。この頃は特別競輪で失格すると次の特別競輪の出場権を失うという規定があり、高松宮杯の前年覇者でありながら出場がかないませんでした。元々、猛練習で作り上げた強さに悔しさが加わって、ハードワークで逆に体調に異変をきたし、4~5月くらいはシックリこなかったそうです。でも、この全日本選抜ではバンクレコード(当時)10秒8を記録、完全復調を印象付けて決勝まで進んできたのです。そして、強力な布陣で決勝に挑んだ千葉勢の4選手、鈴木さんの後ろは覇を競ってもおかしくない先輩の滝澤さん。これはもう強気の勝負に出るしかありません。

最終周回ホーム過ぎで、矢を射るような捲りで千葉勢に襲い掛かる吉岡さん、それを1センターでバンクの幅いっぱいに使って牽制したのが鈴木さん、その勢いで山降ろしの捲りを打ち、追走の滝澤さんを寄せ付けずに優勝しました。今のルールなら微妙ですが、このレースの鈴木さんの動きは流れるようで牽制する側もされる側も危なさは全く感じませんでした。前に踏む力と、安定した両者のスピードの中での牽制だったからでしょうか。
鈴木さんのあの厳しい牽制があっても諦めることなく必死に踏み直す吉岡さん、一方、栄光のゴールを一心に目指す鈴木さんの姿は厳しい勝負の世界の一面を垣間見せたと共にスポーツマンとしての雄姿が鮮やかに私の脳裏に残りました。
若武者の雰囲気を脱して王者の風格を漂わすようになったタイトルホルダー・鈴木誠、以後の活躍を十二分に予感させた吉岡稔真、この両者の熱き闘いは久留米400バンクに刻まれた名勝負の1ページであります。

【略歴】

設楽淳子(したらじゅん子)イベント・映像プロデューサー

東京都出身

フリーランスのアナウンサーとして競輪に関わり始めて35年
世界選手権の取材も含めて、
競輪界のあらゆるシーンを見続けて来た
自称「競輪界のお局様」
好きなタイプは「一気の捲り」
でも、職人技の「追い込み」にもしびれる浮気者である
要は競輪とケイリンをキーワードにアンテナ全開!

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