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2019/09/18

Norikazu Iwai

山賀雅仁のボランティア活動から思うこと

山賀雅仁のボランティア活動から思うこと

9月8日夕方から東日本を襲った台風15号。筆者は8日の朝早くから中国地方に出掛けていたので、直接の被害を受けずに済んだ。
しかし、台風が過ぎ去った後の被害は目を覆うばかりであった。この原稿を書いている9月15日の15時の時点でも、千葉県内は多くの家庭、約13万軒で停電が続いている。14日には千葉県の森田健作知事が東京電力に対して「もう限界がきている」と、語ったことも報じられた。

その中、1人の競輪選手の行動がネットを中心に取り上げられ、話題になった。競輪ファンであれば、山賀雅仁(千葉87期)という名を聞けばお分かりであろう。その山賀が11日、千葉県君津市内のガソリンスタンドで、自転車のペダルを使うポンプを漕いで給油し、多くの人の役に立ったのだという。報道によれば、そのガソリンスタンドは山賀の高校の同級生が家族で経営しているもので、大手ガソリンスタンドのような設備はなかったらしい。友人からの依頼を受けた山賀が11日の11時くらいから17時くらいまでの間ペダルを漕ぎ続け、ガソリンを給油した。よく競輪場では自転車を漕いでカキ氷を作るイベントが行われているが、あのイメージを持っていただければ良いと思う。

競輪選手のボランティア活動がここまで注目されたのは初めてでないだろうか。ボランティアとは元来、目立ってするものではない。過去には寄付や現地に駆けつけた選手は何人もいる。今回は山賀が給油している姿が動画でツイッターに投稿され、あっ!という間に拡散された。「自転車操業」とはよく言ったものだが、プロ(=競輪選手)の力があったからこそ一般の人よりも半分以下の時間で給油(言い換えれば、倍以上の給油量)できたらしい。
山賀本人は周囲に「特別なことをした訳ではない。友人から頼まれて、僕ができることだったから。青森記念から帰ったら、自宅も停電していて大変だったけど、何かお役に立てることがあれば。本当にその気持ちだけですよ」と、話していたそうだ。それでも、競輪ファンとして山賀の行動は誇りに思うのである。実際に松阪G2共同通信社杯に補充(2日目)で入った山賀には選手紹介時から大きな声援が飛んだ。レースでは岡村潤(静岡86期)の前を任されて、南関東地区でワンツー(岡村が1着、山賀が2着)を決めると、場内は割れんばかりの歓声に包まれたと、知り合いの記者からも報告があった。

それとは逆に、個人的に悲しい気持ちになった出来事もあった。災害が起こり、犠牲者が出ているのに競輪が実施された。レースが行われている間も復旧作業は行われていた。一般的に考え、そのような時に開催をして良いものなのだろうか?過去にも同様のケースがあったと、記憶している。

もちろん、人それぞれの考え方はあろうが、一般的には受け入れ難いと思ってしまう。あくまでも競輪は公営競技であることを忘れてはならない。公営競技である以上、大切なものが何なのか?売り上げから還元すれば良いという考えは時代遅れだと感じる。人間の気持ち、被災者たちの立場になって物事を考えなければならない。このままでは競輪というものは、ズーッと、一般社会に受け入れられないのではないかとさえ考えてしまう。

山賀の行動が競輪業界における明るい話題になったからこそ、関係者は今後の災害時の対応について今一度、考えていただきたい。

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