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2020/06/15

Yuji Yamada

“帝王”山田裕仁の競輪哲学 Vol.70

“帝王”山田裕仁の競輪哲学 Vol.70

先日、後輩の現役選手から以下のような内容のLINEが届きました。

「参加選手による開催現場撮影禁止について」
昨今、競輪参加時に、選手が宿舎や検車場などの様子を撮影して、SNS上にアップロードしている状況が見受けられます。公正安全面を考慮し、競輪参加時の写真撮影は行わないように。

このような主旨で、JKAから選手へ通達があったようです。
選手側からしてみれば「ファンの方々が普段は見ることのできない宿舎での選手の素顔や宿舎での生活などを紹介して、レースとは違う角度から少しでも業界に興味を抱いていただけるように」と、やっていたことなのに__という意見でした。

昨今、競輪のG1決勝戦は坂上忍さんの番組『勝たせてあげたいTV』で放送されるようになりました。その放送内では選手の賞金は手取りでいただけ、毎回、現金で持ち帰ることができるという内容も放送されています。それは高額賞金のグランプリも例外ではなく、1億円の優勝賞金も持ち帰れるという内容。
“競輪選手はこのような高額賞金を手にすることができますよ”という魅力をアピールしているのでしょう。しかし、この時代において現金輸送車を襲うよりも競輪選手を襲った方が簡単にまとまった現金が手に入るという解釈、犯罪を誘発してもおかしくない内容とも受け取れるのでは?公正安全どころか選手の安全を全く考えていない内容だと、個人的に呆れ返ったことを覚えています。しかもその番組のスポンサーはJKAでもあるのです。スポンサーである以上はJKAが許可した内容で放送されているのですよね?JKAが実際にやっていることを今回の選手への通達内容と比べたら、選手から不満の声が出るのは当然でしょう。それは現役を退いた私の立場でも分かることだと、ハッキリ言わせていただきます。

今では何事もなかったようにしていますが、かつてはSSイレブン問題で競輪界は世間をお騒がせしました。あの一件を反省して、教訓にできているのでしたら、新型コロナウイルス渦に関する前回のコラムでも触れましたが、誰もが理解できるようにシッカリ納得がいく説明は必要。ただ、選手たちも“自分で自分たちの首を締める内容”であるかどうかは冷静に考えるべきです。自分1人の満足感で全ての人に迷惑が掛かるのですから……。

今月は第71回G1高松宮記念杯競輪が和歌山で開催されます。勝ち上がりは東西別々での戦いになりますが、今開催はナショナルチームで活動中の選手が参加してくるので、駆け引きの競輪よりもスピードレベルの高いレースになるでしょう。本来ならば東京オリンピックの開催間近という時期でしたから、オリンピック代表選手としてコンディションはピークに近い状態になっているはずです。オリンピック日本代表選手が今の競輪界最強タッグとも呼ばれる松浦悠士(広島98期)選手と清水裕友(山口105期)選手に、どのような戦いを挑むのか?など非常に楽しみな開催になるでしょう。
和歌山でのG1開催は初ということで、ファンのみなさんや関係者も非常に楽しみにしていたとは思いますが、残念ながら無観客での開催となってしまいました。選手たちもファンの熱い声援の前で走りたかったと思います。でも、徐々に本来の競輪場の姿に戻りつつもあるので、もう少しだけの我慢です。無観客で物静かな競輪場の中での開催ではありますけれども、画面を通しての熱い戦いを期待しましょう!
競輪界は他の公営競技と比べて、電話・インターネット投票のみの売り上げでは苦戦を強いられています。今回は参加選手もベストメンバーに近く、サテライトや一部の競輪場ではお客様を入れての開催になりました。今後の競輪界を占う意味でも売り上げ目標はどうか達成して欲しいと、心から願っています。

【略歴】

山田 裕仁

山田 裕仁(やまだ・ゆうじ)

1968年6月18日生 岐阜県大垣市出身
1988年5月に向日町競輪場でプロデビュー
競輪学校の同期で東の横綱・神山雄一郎(栃木61期)、西の横綱・吉岡稔真(福岡65期・引退)らと輪界をリード
“帝王”のニックネームで一時代を築いた
2002、2003年の日本選手権競輪(ダービー)連覇などG1タイトルは6つ
KEIRINグランプリ連覇を含む史上最多タイ3度の優勝など通算優勝110回
通算獲得賞金は19億1,782万5,099円。
2018年末、三谷竜生(奈良101期)に抜かれるまでは年間獲得最高賞金額=2億4,434万8,500円の記録を持っていた
自転車競技でも2001年のワールドカップ第3戦(イタリア)で銀メダルを獲得するなどの実績を残した
2014年5月に引退して、現在は競輪評論家として活躍中
また、競走馬のオーナーとしても知られる

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