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2022/05/03

木三原さくら

恋して競輪ハンター

恋して競輪ハンター

恋して競輪ハンター 108 Hunting

競輪は、人間観察だと思うことがあります。脚質、決まり手、過去のレースなど、個人の様々なデータからどんな選手なのかを読み解き、果ては性格まで想像することも。また、ライン構成での選手同士の関係値を考え、想像を膨らましてどんな戦法をとるのか、上下関係のしっかりある先輩後輩なのか、イマドキの若者とやさしいベテランなのか、何なら嫌いなのかしら? などと、正解、不正解は置いておいて、そのような想像を膨らませることも競輪の楽しみの一つでしょう。
ただ、勝負の世界となると、私たちが見て感じた姿が果たして本当なのか? というところに、疑問を持たなければならない。そう感じる、できごとがありました。

4月の末に行われた小松島競輪のF1デイレース『第1回チャリロト杯』。S級優勝は、地元の小川真太郎選手でした。
小川選手の後位を小倉竜二選手、木村隆弘選手が固める地元3車ライン。対するは、松本秀之介選手を先頭に、番手は阿部将大選手、3番手は新納大輝選手と、九州の若手自力が並んだ3車ライン。そして、単騎の野原雅也選手という構成でした。
ここで、小川選手が取ったのは、イン粘りの作戦。イン粘りを見たときに、思わず声が出ました。
「この手があったか!!!」と。
初日特選、準決勝と好タイムの捲りで勝ち上がっていたので、私はてっきり自力勝負だと思っていました。対戦相手の阿部選手の先行も強かっただけに、そういった力勝負が見たいという気持ちもありました。
はい、ここですでに私は大きな過ち(大げさ)を犯していたのです! 小川選手が連日みせていた自力の調子の良さ、そこに、こういうレースを見たいという自分の願望も添えて、観察結果を完全に見誤っていました。
私の面食らった気持ちと、競輪における人間観察に多少の自信を持っていた自分への恥ずかしさをよそに、レースは続きます。小川選手は番手を奪い、さらにそこから捲り。位置を奪われた阿部選手も脚があるので、再び追い上げていきますが、最終的には小川選手をマークしていた小倉竜二選手に止められて、万事休す。結果は番手の小倉選手、3番手の木村選手まで続いて、地元ラインのワンツースリーが決まりました。


小川真太郎選手(徳島107期)

競輪の二分戦なら、リスクはあるものの、番手勝負というのは考えられる一つの戦法。しかし、そんな展開を全く考えなかったのは、小川選手の連日の走りに私が完全に騙されたから。2日間のレースを見て、強く自力のレースを印象付けられて、小川選手の自在性、対戦相手の構成というものを全く考えない思考になっていました。
この出し抜かれた感……全く嫌ではない!
競輪選手として勝ち上がりをどう見せて、どういう印象を相手に与えていたのか。3日間というシリーズで、勝ち上がりを通しての戦法だと思うと興奮します。真っ向勝負を見たかった気持ちはもちろんありますが、テニスだって卓球だって、相手が取りにくいところにボールを返す。スポーツはいつだって、正面突破の力勝負だけではありません。勝つために、相手にとって嫌なこと、弱点を突くのは、当然の戦い方です。今回は九州若手自力のライン、そこに弱点がありました。小川選手はそこを狙って九州ラインを分断、そして、しっかり勝ち切ったレースはお見事でした!
何が本当で、何が嘘なのか。目に見える走りだけが真実なのか、胸の内で選手は何を考えているのか__。
競輪の奥深い扉を、また一つ開いた気持ちになりました。

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【「恋して競輪ハンター」過去コラムはこちら】
107Hunting「競輪に恋して」
106Hunting「レースと重なる人生模様」
105Hunting「負けてる時の打開策」
104Hunting「繋がっていく玉野競輪」
103Hunting「おかえりワッキー」
102Hunting「面倒な客」
101Hunting「研究と進化を続ける競輪選手」
100Hunting「グランプリを振り返って」
99Hunting「残そうと 思う気持ちが 交わされる」
98Hunting「心を射抜かれた諦めない競走」

【略歴】

木三原さくら(きみはら・さくら)

1989年3月28日生 岐阜県出身

2013年夏に松戸競輪場で
ニコニコ生放送チャリチャンのアシスタントとして競輪デビュー。
以降、松戸競輪や平塚競輪のF1、F2を中心に競輪を自腹購入しながら学んでいく。
番組内では「競輪狂」と、呼ばれることもあるほど競輪にドはまり。
好きな選手のタイプは徹底先行!
好きな買い方は初手から展開を考えて、1着固定のフォーメーション。
“おいしいワイド”を探すことも楽しみにしている。

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