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2017/10/29

Norikazu Iwai

トラックパーティーを終えて

トラックパーティーを終えて

トラックパーティー、そう聞いて何を連想するだろうか?よほどの自転車好きならいざ知らず、競輪ファンの大多数も知らないだろう。要するに競技場(トラック)で行うパーティーという言葉通りのイベントなのである。場所は2020年東京五輪自転車競技(トラック)のメーン会場・伊豆ベロドローム、1周250mの屋内板張りバンクである。
トラックパーティーがどういうものかと言えば、ヨーロッパではポピュラーな「シックス・デイ」にならったイベントだ。バンク内に座席を設け、飲食しながら自転車のレースやイベントを楽しむというもの。これにクラブミュージックを中心とした音楽がガンガン鳴り響き、DJまで登場して、レース実況もする。ただ、伊豆ベロドロームは音響設備が悪すぎる。これは2011年に完成した時から言われていたことでもあり、うるさいだけと言う人間もいるかも知れない。
バンク内に設けられたVIP席、果たして誰がVIPなのかと考えてしまう。競輪団体のトップがVIPでは少々、恥ずかしい。東京五輪の会場ならば組織委員会、JOCのトップ。さらに言えばIOCやUCIのトップがVIPに相応しいと思える。VIP席の隣には一般席もあったが、盛り上がりには欠けているように見えた。提供された食べ物など、好みの違いなのかも知れないが……。
目をスタンドに移してみると空席が目立った。確か、ベロドロームの収容人員は1,500人程度だったはず。この収容人数では五輪の開催場所とは認められない。今後、5,000人規模まで増築をしなければならないのである。記憶が曖昧だが、主催者の発表では入場者数は2,000人程度だった。あくまでも主催者発表であり、出たり入ったりの“のべ人数”だったかも知れない。バンク内では飲食できるが、スタンドは火を使った料理の提供は不可。結局、ドリンク類が主流だったので、家族連れなどには物足りなさが残っただろう。「外にも屋台はある。そこで買ってくればいい」という意見もあるだろうが、外の「顔ぶれ」はどうだったか?10月の伊豆、夜までのイベントを考えれば温かい料理をもう少し増やして提供すべきであろう。イベント自体は昼から夜の21時近くまで。本当に楽しんでもらいたいと思うのならば、食べ物も含めて、もう少し考える余地はある。室内だけでなく、外も含めたものを一つにしなくては。何百回とイベント取材をこなしている筆者としては一体、このイベントを仕切った代理店はどこなのか? と、疑問であったのは言うまでもない。
そして、何より「シックス・デイ」にならうならば、1日で終わりにしてはダメだろう。東京五輪を盛り上げる要素を持ったイベントだが、果たして一般の人たちにどこまで受け入れられたか?疑問符が付く。ただ、競技自体は大いに盛り上がった。ガールズケイリンにも参戦して、圧倒的な強さを見せたステファニー・モートンがスプリントとケイリンで優勝。男子も豪州のトップレーサーとして有名なマシュー・グレーツァーがケイリンで優勝。イベントでありながらも世界トップレベルの走りを披露してくれた。250m屋内バンクのいいところは臨場感だろう。スタンド最前席で観戦していると、3D映画のごとく自転車が目の前を時速70km/h近くで通り過ぎる。思わずのけぞってしまうほどで、これが自転車競技の醍醐味なのだ。
今回のイベントが成功か、失敗かは敢えて言うのはよそう。慣れていない面は確かにあった。でも、これだけは言っておきたい。事前周知が果たして行き届いていたかどうかだ。イベント自体は素晴らしいものである。だが、そのイベントがどんなもので、宣伝効果はあったのか。東京五輪まであと何回、開催されるのだろうか?関係者の熱意は感じられたが、全員ではなく個々で自転車競技に対する温度差があったのは事実であろう。本当にこの業界の行く末を憂慮するならば、競輪と自転車競技を切り離さずに向かい合ってもらいたいものだ。

Text/Norikazu Iwai Photo/Kimi Kitamura

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