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2024/01/04

生いっちょう

ストロベビー・生いっちょう『競輪芸人の12月30日』

ストロベビー・生いっちょう『競輪芸人の12月30日』

競輪芸人~博打の駒と共に生きる~

「よーーーし、取ったーーー!! 良くやったーーー深谷ーーー!! ありがとう松浦ーーー!!」

東京、板橋。年末の決して閑静とは言えない住宅街に響き渡る声。
テレビの中の松浦悠士と共にガッツポーズをし、うなだれている深谷知広にも、心から称賛を送った。

市川剛。職業は芸人。吉本興業に所属し、コンビ名はストロベビー、芸名は生いっちょう。パッとしないまま、芸歴19年目をむかえた、いわゆる売れてない芸人だ。

12月29日(金)

ミッドナイト競輪の生配信番組『ベビロト』を終え、日付けが変わる頃に、電車に乗った。
電車の中で、ため息をひとつ。なぜなら、これまで2日間のグランプリシリーズ。ヤンググランプリ、ガールズグランプリはおろか、寺内大吉記念杯でも、1レースすら当たっていないからだ。
初日は心高々に、立川本場までおもむき全敗。
2日目はチャリチャンの生配信で、美女たちの前で全敗。
心は折れかけていた__。
明日、いや今日は、いよいよKEIRINグランプリ2023。
買い目は、およそ1カ月におよぶ、脳内レースでもう決まっている。
拳を握り、
「やるっきゃない」
電車の中で、小さく呟いた。そう、絶対に隣に聞こえないように。
いや、もし聞こえてしまった場合、『年末のヤバイやつ』と思われたくないから、脳内で呟いた。拳も握っていない。
家に帰り、軽く酒を飲み、寺内大吉記念杯の序盤を仕込み、前日、ほぼ寝ていなかったので、エロい夢でも見られますように……と、願いつつ、早めに泥のように眠った。

12月30日(土)

決戦当日の昼間は、仕事も予定もなし。昼過ぎに起きると、嫁と娘は、跡形もなく居ない。それは通常営業だから、気にしない。残念ながら、前夜に見た夢は、「電話をかけなきゃいけないけど、上手くボタンが押せない」という、どうでもいい夢。こちらも気にしない。

いつもならベビロトに備えて、予想を始めていくのだが、この日は違う。
まずは、寝る前に仕込んだ寺内大吉記念杯のダイジェストから……。
誰もいない部屋に、舌打ちが鳴り響く。
寺内大吉記念杯は、完全に心が折れたので、決勝だけ軽く打ち、グランプリの買い目を、大事に、大事に買う。
買い目は、30点。5枚ずつ購入。
それから、『ベビロト』に備えて、ミッドナイト競輪の予想を始める。
しかし、全く集中できない。間違いなく、興奮している。
もうすぐ誕生する、グランプリ覇者と、自分の1カ月間の予想の答え合わせが始まるのに、興奮している。
でも、それを見せないようにするのが、プロの仕事。周りには、誰もいない。

そうこうしている間に、寺内大吉記念杯の決勝を、3着抜けで外し、いよいよ、16時を迎えた。
おもむろに、テレビをつける。
完全にテレビ派だ。You Tubeよりテレビの方が面白いとかでは全く無く、単純に、テレビに競輪が映ってるのが嬉しいのだ。

時は来た。

気がつけば、この3日間で、グランプリを含めて10万の大軍勢を投入している。外れれば、全敗、大惨敗。
心地良い橋本悠督さん、加藤慎平さんの声と共に、最終決戦がスタートした。

まず、前受けは新山響平。自己評価、突っ張り先行5(満点)はダテではなく、ここも突っ張り先行だろう。そして、北日本勢の後ろを見て、驚いた。勢いよく、黄色が飛び出して行ったのだ。3番手は、まさかの深谷知広。これは脳内レースには、なかったことだった。ただ、深谷軸も買っている。神は何というサプライズプレゼントをくれたのかと、心踊った。
後方は脇本雄太が率いる近畿勢。ここまでは順調。道中、ワクワクが止まらない。パチンコでいう、疑似連が続いてる感じだ。そして、運命の赤板周回が来た。
大方の予想通り、新山は突っ張る気満々。だが、ここで予想外のことが。後方から捲り予想の脇本が、勢いよく叩きにいったのだ。新山とのモガキ合いを制して、叩き切る脇本。もちろん、逃げが無いことは無いけど、脇本は捲り一発にかけていると思い、逃げる予想を切った者にとっては、これほどの悪い展開は無い。
「あー、古性だ、、、」
と、思わず声が漏れた。
そう、脇本の番手・古性には、絶好の展開。頭はおろか、2着にも買っていない。脇本が新山を叩いた瞬間、視界がセピア色になった。
最終2コーナーを過ぎ、清水裕友、そして深谷が仕掛ける。深谷に合わされた清水は飛び、深谷の後ろに切り替える松浦。深谷がグングン追い上げる。ただ、逃げるのは、日本最強の脇本__。
「深谷!! 頑張れ!! 深谷!! 頑張れ!!」
いつの間にか、視界はカラーに戻り、5番車の深谷に黄色い声援を送る。いや、魂の叫びだった。深谷は最終2センターで追いつき、勝負は直線へ。
ここで脇本の後ろで、まだ脚が残っているはずの古性の車が出ない。
「イケ! イケイケイケイケ!! イケーーー!!」
もはや、口から出るのは2文字だけ。
深谷が捲り切るのは、古性とのスピードの差で確信。そして、ゴール線の手前で、その深谷を、松浦が差し切る。後ろには、眞杉匠も来ている。

立川競輪KEIRINグランプリ2023ゴール

ゴール線を赤色、黄色、青色が駆け抜ける。
取った。
取れたのだ。
「よーーーし取ったーーー!! 良くやったーーー深谷ーーー!! ありがとう松浦ーーー!!」
テレビの中の松浦と共にガッツポーズをし、うなだれている深谷にも、心から称賛を送った。

競輪は勝った選手はもちろんだが、負けた選手も男をあげる競技だ。
ときに、負けた選手の方が、評価されることも稀(まれ)ではない。
感動した。
当たったからではない。それぞれが持つ、最大限の力をぶつけあった素晴らしいレースだったからだ。
払い戻しを確認し、グランプリシリーズ3日間を、この1勝により、プラスで終えたことを知る。
捲ったのだ。深谷が、捲り切ったように。
最後の最後に、差したのだ。最後の最後、松浦が差したように。

「ただいまーーー」
興奮と感動と安堵と、グランプリが終わった寂しさをごちゃ混ぜにした余韻に浸っていると、嫁と娘が帰ってきた。
「おっ! 競輪? テレビでやってるの? 当たった?」
思考が停止していたため、当たった額を正直に話し、払い戻しの半分を持っていかれることになった。

オレは思った__。
「負けとるやないか」

2024年も競輪人生は続く。
皆様、今年もよろしくお願いいたします!!

ストロベビー生いっちょう

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ストロベビーの連載コラム
「誘導員が一番強いときあるよね」
生いっちょう
Vol.24『ベビロト3周年!』
Vol.23『熊出没!』
Vol.22『打倒・脇本雄太』
Vol.21『さすがの松浦劇場』
Vol.20『激闘が続く2023年』
Vol.19『さすがグランプリ!』
Vol.18『北日本の絆』
Vol.17『大どんでん返し!』
Vol.16『ベビロト2周年!』
Vol.15『脇本雄太選手の魅力』

【プロフィール】

お笑い芸人「ストロベビー」
吉本興業所属。2006年5月にコンビ結成。
競輪大好き芸人として、チャリロトとコラボしたYouTubeチャンネル「べビロト」に出演! ミッドナイト競輪を中心に、金曜日~火曜日の週5日ライブ配信中! ストロベビーのチャリロトYouTubeチャンネル「ベビロト」

・生いっちょう(なまいっちょう)
生年月日:1981年5月30日
出身:宮崎県延岡市
Twitter

・ディエゴ
生年月日:1978年5月23日
出身:沖縄県国頭郡宜野座村
Twitter

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