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2018/02/09

Norikazu Iwai

プライド

プライド

プライド、今回はプロスポーツ選手のプライドについて書きたい。なぜ、そう思ったのかと言えば、2月1日から4日まで行われていた高松G3(開設67周年記念高松競輪・玉藻杯争覇戦)のメンバー、番組を見て驚いたからである。この開催にS級S班は諸橋愛(新潟79期)と三谷竜生(奈良101期)の2選手が参加していた。驚いたというのは初日特選3レース(10〜12レース)の最終レース、要するにメーンレースについてだ。メーンの主役は誰か?誰もが三谷だと思っていたはず。諸橋はS級S班ながらノンタイトル。しかしながら三谷は昨年、G1最高峰の日本選手権を制したことを大きく評価されて、JKAの特別敢闘選手賞(2017年度)も決まっている。

第12レース、ここに登場したのは諸橋でもなければ三谷でもなかった。そう、太田竜馬(徳島109期)がメーン選手のような扱いであったように思えたのだ。実績もある地元の香川雄介(香川76期)が太田の番手についたので、香川がメーンの可能性も否定できない部分もある。だが、最内枠の1番車・太田を主役と見るのが妥当な線だろう。
確かに、太田は将来性豊かなタイトル候補生であることは間違いない。ただ、現状でG3のメーンを張れるだけの存在とは言い難い。これがF1だったら文句は出ないはずだ。百歩譲って、太田が昨年末のヤンググランプリで優勝していれば……である。

単純に今回の参加選手の中で、一番高い競走得点を持っていたからなのか?地元・四国地区のG3だからなのか?その意図を尋ねてみたいところだ。11レースには過去にGPを制した金子貴志(愛知75期)と海老根恵太(千葉86期)の2選手が名を連ね、10レースは三谷と佐藤慎太郎(福島78期)がタイトルホルダーだ。このような背景からも驚くのは当然とも言えるだろう。
驚きどころかショックを受けたのは三谷、諸橋かも知れない。1年間、わずか9人しか履くことを許されないS級S班の赤いレーサーパンツ。この選ばれし9人であるのにG3でメーンを張ることができない。きっと三谷と諸橋のプライドはズタズタにされたに違いないが、もっと可哀想なのは太田だったかも知れない。押し寄せるプレッシャーもあったのか?初日の結果は9着。2次予選こそ1着で勝ち上がったものの、準決勝(再びメーンレース、諸橋も同乗)は再び9着だった。

かつて中野浩一氏(現評論家・世界選手権10連覇)は必ずといって言いほど最終レースに出走していた。サッカーの三浦知良は日本代表の頃、バスで移動するときの座席は常に最後部だったと、知り合いのサッカー担当記者に聞いたことがある。NHK紅白歌合戦でもトリ、大トリがあり、誰もが認める実力者が務めるのが慣例である。
選ばれた者はプライドを持って最高のパフォーマンスを演じるのだ。プロ野球に置き換えるならば、最終回に1点リードで迎えたソフトバンクの抑えがデニス・サファテではなく、他の投手だったらサファテは何を思うだろ?エースとして活躍してきた投手が実績もない新人に開幕投手の座を奪われたならどうか?その時、エースの状態が悪ければ仕方のないことではあるが、競輪の場合は何よりもキャリアがモノを言う世界である。

あくまでも筆者の推測ではあるが、地元地区の選手を最終レースに持ってくれば、売り上げが伸びると思っていたのでは?本場の売り上げは全体の約5%に過ぎない。それで地元地区の選手をメーンに据えるのはお門違いじゃないだろうか。地元を優遇して売り上げが確実に5%から10%に上がるなら話し別だけれども……。
今回、三谷と諸橋は決して不平不満を口には出していないだろう。だが、彼らの心に刻まれた”屈辱”の二文字はしばらく残るに違いない。プロとはプライドで生きるものである。時にはそのプライドがなくなった時だけでなく、傷ついただけでも引退を考えたりするもの。それを決めるのは誰でもない、本人なのだ。プライドの持つ意味、大切さを関係者は今一度、ジックリ考えるべきであろう。

Text/Norikazu Iwai

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