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2017/06/03

Yoichi Yamada

2017世界自転車選手権トラック香港大会 私的観戦記

2017世界自転車選手権トラック香港大会  私的観戦記

オレがケイリンキングだ!

アワンの今回の勝利には運も味方した。3着までが決勝に進む準決勝。アワンは最終バックで4番手。残り半周で少なくとも1人は抜かないと決勝進出は果たせない状況だ。先行するのはこの種目のヨーロッパチャンピオン、スピード持久力に定評のあるチェコのバベク。その後ろからオーストラリアの強豪グレッツァー、前年の世界チャンピオンであるドイツのアイラースが追い上げに入っている。ゴール前の直線、先頭に抜けでたのはグレッツァー、続くアイラース。そして3着争いは内で粘るバベクと外から追い込むアワンとのゴール勝負になったが、先着したのはバベク。アワンはここで無念の敗退という結果に思われた。しかしこのレース、残り1周となるところで、その時3番手のアイラースが後ろから抜きにかかったアワンを押し上げた行為を反則として取られ、アイラースは降格。アワンは繰り上がり3着で決勝進出となった。また、もう一組の準決勝でも2着入着のフランスの元世界チャンピオン、今大会1kmタイムトライアルでは返り咲き優勝を果たしているペルビスがアイラースと同じく走行違反で降格。先行力のある実力者2人がペナルティで決勝進出を逃した。予想外の事が起こるのがケイリン。この時アワンには幸運を運ぶ風が吹いていた。

男子ケイリン決勝。メンバーはチェコのバベク、オーストラリアのグレッツァー、チェコのケレメン、コロンビアのプエルタ、ドイツのユルチック。そして、マレーシアのアワンの6選手。先行力があるのはバベク、グレッツァー、プエルタ。特にバベクはこのシーズンのW杯で、そのスピード持久力を活かして2大会連続優勝を飾っている。レースは決勝のプレッシャーなのか?力を温存するためなのか?ペーサー離脱後も各選手牽制が入り、混戦状態で残り2周を迎えた。ここで外を上昇して前を取ったのはオーストラリアのグレッツァー。その後ろはコロンビアのプエルタとチェコのケレメンが並走状態。アワンは最後尾ながら集団の中で少しずつポジションを上げ踏み出しのタイミングを計っている。そして残り1周、外並走2番手のプエルタの後ろまでポジションを上げたアワンは前のプエルタの踏み出しに併せて一気にスパートをかけた。「ポケット・ロケットマン」という呼び名の通り、ここ一番のパワーが売りのアワンにとって、それは絶好のタイミングだった。先行を得意とする選手が抜け出せず隊列のスピードが上がりきらない中、そこまで後方で脚をためていたアワン渾身(こんしん)のアタックは見事に成功して、最終バックセンターで先頭に。そして、フィニッシュラインに至っては2番手以下に4車身ほどの大差をつけてのゴール。まさに千載一遇のチャンスをものにしたアワンが、悲願のケイリン世界チャンピオンの座を勝ち取った。過去世界選手権のケイリンで、アワンは銀メダル1個、銅メダル2個を獲得している。しかし、いずれも最後は追い込み勝負をかけて差し切れず、金メダルには手が届いていない。それが今回は強力な先行型の選手を相手に勝ち上がり、決勝では残り1周からの自力勝負を決めて初めての金メダルを勝ち取った。20代前半で頭角を現し、その小さな体でアジアを背負い世界と戦ってきたアワン。2011年には落車でふくらはぎにトラックの木片が突き刺さるという大けがを負い、その後は低迷の時期が続いたが、3年ほどかけて完全復帰。世界選手権では一昨年と昨年続けてケイリンで銅メダル。そして、ついに今年香港で長年抱き続けた世界選手権金メダルという大願を成就させた。レース後、興奮冷めやらぬアワンは中継のテレビカメラに向かって叫んだ。
「オレは10年間、この時を待っていたんだ。決して諦めず挑戦し続けたからできたんだ。ついにオレが世界一だ。オレがケイリンキングだ!」

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