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2017/08/28

P-Navi編集部

エッセイ「競輪場の在る街」Vol.4〜佐世保

エッセイ「競輪場の在る街」Vol.4〜佐世保

佐世保までの道のりは長い。長崎空港に降りて、佐世保行きのバスに乗る。世界初の海上空港であるからして、空港島から陸へ渡る橋は一直線に長く伸び、天気が良ければ既に風光明美な風景が拝める。
対岸は大村である。なぜか自動車教習所前のバス停に停まる。その後、しばらく町中を走るが、そのうち、JR大村線と重なり合いながら海岸線を“ぐねぐねうねうね”しながら走るようになる。大村線を走る列車は少ないので、車両を見ることはあまりない。夕方に到着する飛行機だと、ちょうど日の入りの絶景を堪能することができる。いろいろな表情と色を見せる大村湾を横目に楽しむ。ところどころ停車しながらバスは走る。
このバス路線最大の見せ場は、やはりハウステンボスだろう。起伏に富んだ地形を進むバスが峠を越した直後、巨大なヨーロッパ風の建物を捉える。この瞬間に日が暮れかけていれば、薄くライトアップされた欧州の街並みに触れることができる。しかし、ここで立ち寄るわけにはいかない。あくまで目的地は、佐世保の街である。また、しばらく行くと、徐々に幹線道路沿いにチェーン店や大型のショッピングセンターなどが増えてきて、街の風景に紛れ込んでいく。まだ起伏は続く。斜面に張り付くように街並みも起伏が激しい。そうして目的地の佐世保の中心地に着いた。

夜、佐世保でいつも行く「ささいずみ」という居酒屋が閉まっていたので、「ブラック」という小さなカレー屋に行く。店に奥があるのかどうか知らないが、一見、カウンターのみの店である。いろいろな小物が雑多に置かれており、祖母の家を思い出した。祖母は自分では自転車も乗ったことがないくせに、祖父の影響か車やバイクが大好きで、ミニカーやプラモデル(もちろん、祖母が作ったものではない)がたくさん飾られている。私にとっては懐かしい雰囲気だ。そこで、店名通りの真っ黒なカレーを食す。
店を出て、ふらっと駅の方に向かった。駅を潜り抜けると、そこはすぐに海である。きれいに整備されている港湾公園であるが、まだそんなに夜も遅くないのに、誰もいない。対岸には、中型船が係留されている。なぜ、この景色を誰も見にこないのか。30分ほどそこにいたが、結局、人の気配は感じなかった。諦めてホテルに戻る。途中、ちらっと見えたちゃんぽん屋(ここも、夜食をよく食べにくる店である)には、人が溢れていた。急に人恋しくなり、そのちゃんぽん屋に惹かれたが、胃袋がそれを許しそうになく、店から漏れる光と笑い声に後ろ髪を引かれながら、肩を落として歩いた。

Text・Photo/Go Otani

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