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競輪

2017/08/31

Joe Shimajiri

疾風のサイドストーリー/阿部大樹(埼玉94期)

疾風のサイドストーリー/阿部大樹(埼玉94期)

また、6月の小松島G3では見事に決勝進出。決勝前のバンク内における特別紹介時の選手たちは「懸命に走ります」、「応援どうかお願いします」、「ファンのみなさんの車券に貢献できるように」という紋切り型で、神妙な面持ちを一様に崩すことがない。決勝への緊張感は否が応でも増し、場内のお客さんも拍手と選手の名前をコールする程度で雰囲気としては堅苦しい。そこで8番車(コメントの順番も8番目)の阿部は被っていた帽子を頭上で軽やかにヒラヒラ掲げて
「穴党のみなさーん、お待たせしましたぁー!阿部ですよぉー、頑張りまーす!応援して下さーい!」

そんなちょっと場違いで能天気とも思える言動で空気は一転、場内は大爆笑、大喜びだったことは言うまでもない。阿部の横にいたインタビューアーの山口幸二氏も笑いをこらえ切れず吹き出してしまう。ただ、取材者の中には「ああいう場でオチャラケて空気が読めないな……」と、渋面を作る者もいた。確かにそういう側面はあるかも知れないのだが、阿部は場内に足を運んでくれているファンを想ってサービスをしたに過ぎない。阿部がお客さんだったら、あの空気にきっと耐えられなかったのだ。むしろ空気が読める、関西風に言うならば『気ぃ遣い』の選手。間違っても『チョケて』いるだけの選手ではないと、筆者は感じた。

阿部のトークは基本的に笑いが軸ではあるけれども、競輪に対しては純粋だ。レースの振り返り、反省点、今後の課題など、順を追ってシッカリ(適度な笑いを取りながら)述べてくれるのは、囲みに加わっている取材初心者の筆者でもとても分かりやすい。
そして、ここからは完全な邪推かも知れないが、もしかしたら阿部は明るいキャラクターを意識的に演じているのではないだろうか?そう、阿部を見ていると、「お前の真の正体は!?」的なプロレスのマスクマンと似たような感覚に陥る。厳しい勝負の世界で、阿部は仮面で素顔を隠して戦っているのだ。本来、ポーカーフェイスとは心の機微が読み取られない無表情が常識。だが、阿部は敢えて爆笑の仮面を被り、その下で誰も知ることのないポーカーフェイスを作っているのではないかと。

近い将来、記念競輪を制するのは不思議ではない、その力量を持ち併せていると思われる阿部だが。その時は涙、涙の記念初優勝で、自らマスクを脱ぎ捨てるのか?あるいはマスクマンのままで、大爆笑の表彰式になるのか?どちらであっても筆者はその場に立ち合いたいものである。

Text & Photo/Perfecta Navi・Joe Shimajiri

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