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競輪

2017/09/22

Yuji Yamada

“帝王”山田裕仁の競輪哲学 Vol.8

“帝王”山田裕仁の競輪哲学 Vol.8

競輪界もグランプリに向けて

まだまだ日中は30℃を超えることもあり、残暑のキビシイ毎日ですが、徐々に秋の風も感じられる「天高くして馬肥ゆる秋」になってきましたね。このフレーズで真っ先に思い浮かぶのは「食欲の秋」であるのですけれども(笑)。やっぱり、元競輪選手としては「スポーツの秋」がやってきたことが何よりも喜ばしいこと。競輪界もグランプリに向け、いよいよ大詰めであります。
世間では新聞紙上の一面に事欠かない出来事が次から次へと起こっていますよね。陸上界では東洋大の桐生祥秀選手が日本人初の100m=9秒台(9秒98)という記録を出して、新聞の号外が出るほどでした。芸能界では、世代を問わずに誰もが必ず一度はヒット曲を聴いているであろう安室奈美恵さんの電撃引退発表もありました。本当に色々な出来事が起こる1年だと実感。競輪界も負けずに明るい話題が欲しいですよね。
先日、武雄競輪場で共同通信社杯が行われました。G2とはいえ優勝賞金は2,100万円超え。選手としては、グランプリ出場への賞金ランキングアップにはどうしても欲しい優勝の一つです。結論から先に言いますと、諸橋愛選手(新潟79期)がビッグ初優勝。賞金ランキングも7位まで上げてきて、グランプリ出場も見えてくるところまできました。諸橋選手には「おめでとうございます!」という祝福と共に、最後までグランプリ出場を目指して、残りのレースを頑張ってもらいたいです。

自分の前では勝たせないプライド

それでは、共同通信社杯の決勝戦を振り返ってみましょう。
新田祐大選手(福島90期)が予選から捲り3連発で、圧倒的な強さを見せて決勝進出。脚力的に本調子と判断しにくい状態でしたが、総合力で決勝進出の平原康多選手(埼玉87期)。骨折明けでまだ完調ではありませんが、今まで自分が積み上げてきた地位によって後輩の頑張りに応えて決勝進出してきた村上義弘選手(京都73期)。8月のオールスターで新田選手の番手から優勝した《渡邊一成選手(福島88期)を先頭にした北日本ライン》VS《平原先頭・諸橋の関東ライン》対《兄・村上義が先頭の近畿ライン》に《単騎の松谷秀幸選手(神奈川96期)》という図式でしたよね。メンバーはどうであれ、渡邊選手の番手を回り、狙われる位置だとしても勝ち上がりの強さから新田選手の優勝を予想した方が多数いたことでしょう。
レースを観て皆様どう思われましたか? 村上義選手が渡邊選手を全力で突っ張って先行。はい、打鐘から全力で先行です。ダッシュ力の差で渡邊選手に出られてしまいましたが、その後、新田選手が捲くらなければならない展開になり、自在に走れる平原選手が内に潜って新田選手をすくい上げる。最後は中を割った諸橋選手が優勝という結果でしたが、あの打鐘でスンナリ渡邊選手を出していたら間違いなく新田選手の優勝だったでしょう。打鐘で渡邊選手ともがき合った村上義選手、併せ切れれば自分が逃げ切れると思っていたのだろうか?先行できれば平原選手に捲られることはないと思っていたのだろうか? あくまでも私の推測ですが、自分と同じレースでそう簡単に4連勝させてたまるか。自分の前では勝たせないというプライドだけで走っていたように思えます。私も自分と同じレースで後輩の吉岡稔真選手(福岡65期・引退)に勝たせるつもりはない。たとえ自分が勝てなかったとしても、自分の前で勝たせることはないと思って戦っていました。
現在の選手たちは仲良しグループの戦いと、よく言われていますが、勝負に対する気の強さが足りないからレースの面白さも失われているのではないでしょうか? あの村上選手の走りは、選手間でも賛否両論あって良いと思います。だけど、あの走りで考えさせられる、受け止めた何かがある競輪選手はもっと成長していけるはずです。

日本列島を南から北まで縦断した大型台風の影響で順延もあって、売り上げ目標額も大幅に下回り、そういう面では残念な開催になってしまいました。でも、前述しましたように「気付き」を得られる開催でもあったように思います。
今年残りのG1レース2戦も脚力と戦略、加えて人間ならではの泥臭いレースで盛り上がることを期待しています。

【略歴】

山田 裕仁

山田 裕仁(やまだ・ゆうじ)

1968年6月18日生 岐阜県大垣市出身
1988年5月に向日町競輪場でプロデビュー
競輪学校の同期で東の横綱・神山雄一郎(栃木61期)、西の横綱・吉岡稔真(福岡65期・引退)らと輪界をリード
“帝王”のニックネームで一時代を築いた
2002、2003年の日本選手権競輪(ダービー)連覇などG1タイトルは6つ
KEIRINグランプリ連覇を含む史上最多タイ3度の優勝など通算優勝110回
通算獲得賞金は19億1,782万5,099円。
2002年に記録した年間最高賞金2億4,434万8,500円はいまだに破られていない
自転車競技でも2001年のワールドカップ第3戦(イタリア)で銀メダルを獲得するなどの実績を残した
2014年5月に引退して、現在は競輪評論家として活躍中
また、競走馬のオーナーとしても知られる

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